日本建築学会の作品賞、京都建築賞藤井厚二賞など、近年受賞されている注目の構造家・柳室純さんのレクチャーのアーカイブです。


日時 
2023.7.22(土) 稲盛記念会館 2F 204 教室 16:00 ~ 

ゲスト|柳室純〈柳室純構造設計 代表〉

プロフィール
Jun YANAGIMURO /柳室 純  
1980        静岡県生まれ。2003        京都大学工学部建築学科 卒業。2007        京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程 修了。2007-2015 満田衛資構造計画研究所。2015       柳室純構造設計 設立。

主な作品に「郭巨山会所」「3本の路地の奥のシェア住居」「NEW KYOTO TOWNHOUSE 4」「大原の家」「富田林の家」「House in Fukasawa」「Gallery/Salon H」「2/5」など。

主な受賞に2023年日本建築学会賞(作品)、第66回大阪建築コンクール京都府知事部門奨励賞、第11回京都建築賞優秀賞、奨励賞、藤井厚二賞など。

司会|森田 一弥〈京都府立大学准教授/ 森田一弥建築設計事務所〉

主な参加者
満田 衛資〈京都工芸繊維大学 教授 / 満田衛資構造計画研究所〉
垣内 光司〈八百光設計部 / 京都府立大学 非常勤講師〉
林 誠〈森田一弥建築設計事務所 / 京都府立大学 非常勤講師〉
川上聡〈川上聡建築設計事務所〉
辻 槙一郎〈京都府立大学 講師〉
学生・その他参加者


はじめに

森田|

今日のゲストは構造家の柳室純さんです。
今回が京都府立学で開催する2回目のレクチャーです。

大学では、僕も建築の設計課題を担当しているんですが、実際には建築の設計って1人でやるものじゃなくていろんな専門家と組んでチームでやっているんです。僕が設計するときにも柳室さんに構造をやっていただくこともたくさんあるし、京都の建築家っていうのは、かなりたくさんの方が柳室さんにお世話になっていると思うんです。柳室さんはつい最近、建築学会賞という賞を𩵋谷さん〈𩵋谷繁礼建築研究所 / 京都工芸繊維大学 特任教授〉と一緒に受賞されて、 あらためてお話を聞くにはちょうどいいタイミングだなということでお声掛けさせてもらいました。

3時間の時間をとってあるので、前半と後半に分けてお話してもらおうと思っています。途中で適当に手を挙げてもらったり質問してもらったりと、やり取りをしながら、気さくなレクチャーになればと思いますので、気兼ねなく参加してください。

(満田さんが客席側に座る)

早速、満田さんが来てしまいました。柳室さんの師匠の満田さんが来る前に色々話をしておこうかなと思ったところで、来られてしまいましたね。(笑)

満田|

いったん帰りましょうか?

森田|

いやいやそう言わずに。(笑)

では始めましょうか。学生の皆さんには構造設計の面白さって何かいうところが柳室さんの話で伝わればと思いますし、設計を考える時に構造っていうものがどういう役割を果たしているのかとか、もしくは、柳室さんがどういうきっかけで構造設計に興味を持ったか、みたいなことを色々聞けたらと思いますので、皆さんにはどんどん質問していただきたいと思います。

では、柳室さんよろしくお願いします。

柳室さん自己紹介

柳室|

こんにちは。 ご紹介いただきました柳室と言います。よろしくお願いします。お忙しい中、お越しいただいてありがとうございます。

森田さんには色々とお世話になってまして、もちろん仕事でもご一緒させてもらっています。自宅を2年ほど前に建てたんですが、その時、贅沢なことに森田さんに土壁を塗ってもらいました。当然、お支払いしますと申し出たんですが「いらないので自宅の耐震改修の調査をしてくれ」ということで、技術の物々交換みたいなことをさせていただきました。結局、建物に問題はなく、ただ美味しいものをごちそうになって帰ってきたという感じでした。森田さんは仕事と普段の生活をすごくシームレスにされている方で、その生き方みたいなところで参考にさせてもらってる方ですね。

レクチャーということで、まだ未熟な身ではあるんですがこういう機会いただいたので。ほとんど学生さんということで、どうやって僕が構造設計をやるに至ったかということと、今どういうことを考えて設計をしてるかということを紹介させていただいて、その中で色々完結していない話や考えを話すので、質問してもらって、楽しくお話できたらいいなと思っています。

構造に進んだきっかけ

柳室|

前半は自分がどうやって構造設計の道に進んだかというところを、お話できたらいいなと思ってます。

僕は静岡県に生まれて、大学から京都に来ました。京都が大学に来る前からすごく憧れの場所だったので来たんですが、やっぱり京都の街のスケールっていうのはすごくいいなと思っています。今、実際に20年ぐらいいるんですが、やっぱり仕事をしながら身の回りの生活を連続的にしていけるようなスケール感があって、これからも京都に居続けるんだろうなという場所ですね。

大学を出てから構造をやり始めるんですが、それに至った経緯を少しお話できたらいいかなと思っています。 これは僕が生まれた町で、東海道の一部なんで主要な動線が通っています。この地図で見るようにすごく海と山が近くて全然フラットな場所がないような場所です。この左の写真みたいに東名高速道路が海に突き出ている場所が唯一あって、子供ながらに「ここでもし大事故が起きたらやばいな」とは思っていました。

自然がすごく近くにあるんですが、その中で人工的なものが 対比的に存在しているという景色を見ながら育っていたという感じがします。田舎は田舎なんですけど、動線が通っているのでせわしない感じがありながらも自然を近くに感じながら暮らしてたというような原風景があります。

高校の時に芸術とかアートに詳しい友達が同じ部活にいました。その子の家に行った時にガウディの 写真集が置いてあって、それを見たのが建築との出会いです。 その時、建築という分野があることを知らなかったんですけど、その作品が持っている力みたいのは、何もわからなかったですけどすごく強く感じて。色々調べると、建築っていう大人になっても絵とか模型とか工作をしながら物作りができるみたいな仕事があると。真面目な顔をしてクリエイティブなことをわざわざ大学まで行って学べるみたいな、そういう分野があるということがわかって、すごく魅力的に感じて建築に進みました。

大学に入って1、2ヶ月で建築概論みたいな授業で三大巨匠が誰かということを知るわけです。ミースと、ライトと、コルビュジエという3人が登場して、「自分が知ってるガウディがいないじゃないか」とびっくりしました。ガウディの扱いとしては教科書にも異端児的な扱いでちょっと出てくるだけでした。近代建築においては、異端児という扱いで取り上げられていたというのが印象的でしたね。

でも、その時は実物を見てなくて「やっぱり見ないといけないな」ってことで、海外旅行で1番最初に行ったのが スペインとイタリアでした。京大の場合、設計演習で1番最初にやるのがミースの〈バルセロナ・パビリオン〉でした。それももちろん見たんですが、ガウディの作品をいくつか見るとやっぱり圧倒的に〈サクラダ・ファミリア〉の力がすごくて、インパクトがすごかった。

それがなぜかと考えていくと、やっぱり「建築が未完である、まだ作り続けてる」ということがすごく大きくあると思ったんです。時間を扱っているという話と、近代建築だと見られない装飾みたいなものが建築の構造体と表裏一体であるみたいな状態が建築を圧倒的にしている理由なんだろうなと感じながら見てました。

右の写真にあるように、構造的な観点からいくと「逆さ吊り実験」といって、アーチ状の屋根を作るときに圧縮力を効率よく伝える形を導く実験です。この時代から構造のこともきちんと考えてるという意味でもすごく印象に残った建築家です。構造をやり始めて、改めていいなと思い始めていて、〈サクラダ・ファミリア〉が3年後ぐらいに出来上がるんですけど、本当に完成するのがいいのかというのは、個人的には確かめないとなと思ってます。

森田|

そういえば、僕がスペインに行ってる2011年ぐらいでしたっけ。柳室さん新婚旅行に来られましたね。バルセロナはあれが2回目ということですか。

柳室|

行きました。あれ2回目ですね。あの時は森田さんが…

森田|

ちょうど文化庁の研修でバルセロナに住んでいて。

柳室|

「本を4冊ぐらい持ってきて欲しい」っていう風に頼まれましたね。(笑)