構造家の系譜

柳室|

とあるイベントで配布されていた「構造家の系譜」という資料を拝借しています。いわゆる構造家と呼ばれる人がいつ登場したのかは諸説あります。木村さん以前の構造家の方も取り上げているんですが、今、世間で言われてる構造家というような形でやり始めた人というと木村俊彦さんになるのかな、と僕は認識してます。建築家業界と比べると歴史は年数としてはそんなにないですが、繋がりも強いし、この流れを感じながら引き継いでいく感じもあって、そういう喜びももちろんあります。





図版 シンポジウム「日本の近代建築を支えた構造家たち」配布資料

今は構造家があまり多くはないんですが、系譜がもう書けないぐらい、裾野が広がっていけばいいという気持ちも一方であります。あまり難しい分野として構造設計を扱わずに捉えていけたらいいんじゃないか、という風に思います。

構造家の役割

柳室|

構造家の役割を少し考えてみたんですが、構造家というのは、一緒に仕事をしている建築家の人たちのために仕事をしているわけではなくて、あるべき建築のためにやっていると思っていて、そのことは重要かなと思っています。仕事としては建築家と協働してるんですが、要望や表面的なことに囚われるんじゃなくて、という意味です。

構造家が誕生した経緯としては、建物自体が複雑になってきて、スパンを飛ばしたり新しい形の空間を作ったりするために『構造』っていう分野がすごく重要だ。」という風になってきた。安全性の確保をするというベクトルが、建築を新しくするとか、豊かにするっていうことと相反する要請であって、ベクトルが一見、逆向きに向いてるような要請に対応しようと思うとどうしても「建築家1人でそれをやりきれるようなものじゃない」ということなのかなと思っています。

理想的な建築家像みたいなものを、建築家も、構造家含め、いろんな分野の人がイメージしながら、同じ視点で理想的な建築家の統合体というか、そういう像を作っていくと。第三者的に振る舞うというよりは、同じ視点で1つの理想的な建築家に近づいていく視点が必要と思っていて。元々1つだったものが分裂したもので、再統合するためのプロセスっていうのが構造家の存在意義なんじゃないかなという風に思ってます。

その時に考えることとしては、建築家が持っていない別の視点で判断するということが、僕らにはできることだと思っています。物理、数学、技術を武器に、建築家とは同じ方向を向いていてもアクセルを踏む瞬間とか、逆にブレーキを踏んだりする瞬間もあるんですが、そういったことを使い分けながら、ふわっとしているアイデアの実現と発展を進めていくのが、構造家の役割という風に思っています。

大事にしている5つのポイント

柳室|

今の自分が考えている姿勢みたいなことです。もちろん色々条件があるのでプロジェクトごとにテーマというのは細かくあると思うんですが、自分が共通して考えてることを列挙してみました。特段珍しいことではないとは思うんですが、自分としては大事にしてることです。

1番上の「原型の更新」というのは、今ある建物のあるべき姿というのが何かということを考える。もちろん建築にはクライアントがいて要請みたいなものがあるんですが、そこを一旦置いておいて、建築の型にどういったものがあるかということを1回考えてみて、それを塗り換えていく、ことが面白みでもあるし、必要なんじゃないかなと思ってます。

2つ目の「汎用と専用」というのは、今の時代、作りっぱなしじゃいけないっていう話があって。仕事としても改修が増えてるんですが、自分が改修の仕事をする中で、元々建っている建物に「こういう風にきちんと整理されていたらもう少し改修しやすかったな」というものがあったりして。その中で、更新するところと残すものを新築の時から意識してやってます。

3つ目は「素材と断面を配する」と書いてるんですけど、これは自分の中では比較的大事にしていることです。あるべき素材と断面を使いながら、きちんと考えられた配置で建物の中に構造体を入れていくと、建築がすごく大きなテーマがなくてもきちんと成立する。考えられたものと考えられてないものでは違うものになるという、そういう微妙なところです。「なんとなくいい、心地よい」みたいなこと、あるいは「すごくハッとする」そういうものを構造の面でも貢献できるんじゃないかと考えてるということです。

4つ目の「自由のためのデザイン」です。建築家の方が考える不定形なものや曲線を使ったものが、感覚的な良さが根拠であることがあります。そういったものを合理的じゃないからと排除するんじゃなくて、ただただ実現させるために設計するということでもなく、一旦整える作業を入れる。僕らが入ることで、不定形なものが新しい形を生み出すことができるんじゃないかと考えて設計をしています。

最後の「施工の痕跡」というのは、建物って大きいものだし、お金もかかるのでどういう風に作るかということを無視することはできない。作り方を表現するということもあるし、逆に現し方を重視するのであれば作り方を考える。作り方と最後の表現の関係性みたいなことを意識してやっているという話です。

この辺りの話を具体的にしていこうと思います。