原型の更新

柳室|

1つ目の「原型の更新」ということについてなんですが、今やっているプロジェクトは比較的住宅が多いので取り上げる作品も住宅です。構造は目的じゃなくて手段だと思っているので、構造だけで成立するっていうことはなくて。その発端になる部分は建築家の方から出てくることが多いんですが、構造の方にパスが来たら、構造の範囲で新しい型は何かということを考えます。「そもそも意匠の方が考えている型が本当にオリジナルなのか、それが型としてふさわしいか」ということを一緒に考えるということを意識しています。

で、早速なんですが森田さんの作品〈大原の家〉です。敷地は京都の大原で、周りに遮る建物が何もなく、敷地周辺に強い形を決める根拠がないような場所の建物です。森田さん自身はそういう場所では正方形がいいということを言われていました。周辺の各方位に対して強い形を決めるものはないので、2階にリビングを持っていって、リビングでは全方位に開けてるような空間が欲しいと。逆に、1階では寝室や個室、あとは水回りをおいて、そちらは全部が開けてる必要はなく、1,2階の空間の質の差があるという条件でした。

Photo by Nobutada Omote

この時に、最初は2階の360度の視線の抜けを確保するために森田さんの方から全体に斜め柱が入っているアイデアが出てきて途中までそれで進めていましたが、この地域にそれが型として合っているのかというところが構造的にも疑問があって。

一旦、鉛直の柱だけで水平な連続窓を成立させるとしたらどれぐらいのものが必要なのか、ということでまずは計算してみると「これぐらいのサイズで、本数的にこれぐらいのものでいける」ということがわかりました。具体的には150角の柱を全部で12本入れています。その上下の部分を垂れ壁と腰壁で固めて水平方向の力に抵抗する。その時に「下の階が同じように水平連続窓で全部開いている必要はなくて、むしろ四方は閉じていて落ち着いた空間があるぐらいの方がいい」というお話があったので、各隅に3本ずつまとめてそのまま下ろしてL型の耐力壁の要素を作って、1階と2階で同じ柱を使って、水平力に抵抗するシステムを作りました。

「住宅はおおらかであるべきだな」という風にこの時すごく感じました。6~7m角ぐらいのスペースで、1階は柱が落ちているけど2階は柱が落ちてない。森田さんは「住宅では2階にリビングを持ってく方がいい」ということを提唱されているんですが、そうすると2階に壁をあまり作らなくても成立する型がいいってことで、この時に初めていわゆる耐力壁じゃないもので木造を作るということをやりました。柱のサイズは150角と比較的大きいですが、他に要素がないのでむしろそれぐらいのサイズがふさわしいぐらい。太い柱の可能性も感じるようなプロジェクトでした。

Photo by Nobutada Omote

次のプロジェクト〈House in Fukasawa〉は先ほどと真逆で、都市の中の狭小地に作られる住宅で、敷地は東京の世田谷区の深沢というところです。右のスケッチが打ち合わせ2回目、3回目ぐらいのものなんですが、間口が3mらいで奥行きが20m弱ぐらいあるような敷地でした。こういう典型的な狭小地は結構多いので、構造的に何らかの答えを見つけておかないといけないとは常々思っていて。

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いろんな方法があるとは思うんですが、この時には建築家の服部さんたち〈Schenk Hattori〉から「間口が狭いので小さい部材で構成したい」ということがキーワードとして挙がっていました。先ほどやったようなラーメン架構を使うとどうしても柱梁のスケール感が大きくなってしまう。あと、キーワードとしては2階の床がスキップフロアとして上がっていくということがあったのでその辺りも考えながら。

まず、この断面にあるような間口が3mで、高さが7mぐらいあるひとつながりの箱みたいなものを考えて、それが成立するには最小限、何がいるかってことを考えてみました。水平力というのは風と地震力と2つあるんですが、上に行くにつれて荷重が小さくなります。そうすると、もしラーメンではなくてで対応しようとすると、一般的には例えば1階の部分は90cmの壁が必要で2階は60cmの壁が必要という離散的な壁の長さの変化が出てきます。それを単純に必要なもので考えると、上に行くほど少なくなるんで、それをそのまま形にしてみるとこういうトラス状の構造になりました。

1階の部分は、そのまま三角形で降りていってしまうとプランに対して親和性が低くて、基礎に対して施工的に複雑になるので、ある一定の高さで鉛直方向の耐力壁に切り替えています。2階の部分のスキップフロアはこのトラスに対してどこに取りついてもいいように梁自体をトラス両サイドから挟むような形にすることでトラスのどこに来てもいいような、仕組みを作っています。

右の写真にあるように、トラスを先行して組んでおきます。現場ではこれがトラス状の柱という風な扱いでした。このサイズと軽さであれば運べるということもあらかじめおさえ、現場に搬入して建て込んでいったという形になります。なので、先に壁と柱を立ててしまって、2階の床は梁をトラス柱にかけるような形で進めていきました。

出来上がった空間はこのようになります。特徴としては、建物を1階・2階という風に考えるんじゃなくて、狭小地という特殊な条件において最小限で建物を成立させる要素というのをまず作って、そこに後から空間を当てはめていくという作り方をしています。狭小地に対する新しい型を提案したプロジェクトになります。


図版 Schenk Hattori

森田|

ここって天井の高さはどれぐらいなんですか。

柳室|

1階はロフトも含めて3.5mぐらいです。

森田|

天井を結構上にあげていて、壁は途中で終わってトラスに切り替わってますね。三角形で組んで組み立てているんですか。

柳室|

そうですね、三角形に切り替わるところの下の梁から上は先に組んでいます。 柱の上のほぞをトラス部の下部に差し込んでいます。

森田|

トラスを後で組むの大変ですもんね。さっきの〈大原の家〉はそれで結局トラスやめましたよね。

柳室|

そうですね。この時の接合部はホームコネクターっていうものを使っているんですけど、それを現場で施工するのは大変です。逆に、接着剤系を工場でやる分には時間確保できるので問題ないですね。 このスケールの材料に接合部でガセットプレートとドリフトピンを入れるというのは大袈裟なところがあって。ボルトで引くというのも中に入れ込むことが難しいので、この時は最小限の欠損で済む接着系のホームコネクターを使いました。

森田|

小さなサイズというお話でしたけど、どれぐらいの大きさですか。

柳室|

最終的には105角で、プレースの斜め材だけが90角です。柱も全て90角で設計はしていて、実はそれでも設計できているんですが90角よりも105角の方が安かった。日本で今作る場合だと、105角と120角は規格品としてあるので、そこから外れるといくら小さくてもなかなか安くならないことはあります。