施工の痕跡

柳室|

最後、「施工の痕跡」です。施工とその作り方の部分と、最終的な現れ方というのが、切っても切り離せないものだと思っています。最終的にどういう風に見せるか。施工の条件を比較的素直に表すというのも1つの表現ですし、逆に痕跡が見えないような工夫を意識して設計するのが大事かなと思っています。

これは施工の痕跡を残した方のプロジェクトで、築100年ぐらいの古民家だったと思います。高齢のおばあさんが住んでいるんですが、孫にあたる方が、新しい家族としてここに引っ越してくると。階高が結構低いので、建物を生かしながら、1階の部分を少し掘り込んであげて、 建物を残しつつ下側に増築することをやったプロジェクトです。建て替えも考慮はしたんですが、おばあさんもこの建物に愛着があって、半分ぐらい改修するという状態で進めました。2階の部分は基本的に残して地下を掘るということが施工的な条件でした。

この時に全体の剛性を確保するために、一旦、鉄骨の補強梁を使って2階の部分をジャッキアップするということが必要でした。まず解体をして、2階部分以外のところは壁を全部取っ払ってあげる。で、2階を支える主要な柱の部分に鉄骨の梁を設けて、これを仮設の柱で受けてあげると。受けた部分以外のところをまず掘って、これを組み替えて、仮設の柱を、一旦掘ったところをもう1回盛り替えて、別のところに仮設柱を移動して、掘り方を進めました。最終的に2階の部分をジャッキアップした状態で、1階の部分の基礎を打設すると。打設が終わったら、仮設柱を木造の柱に変えて、それ以外の要素を作っていきました。


最初は鉄骨の梁を取るっていう話もあったんですが、建築家(ランチ!アーキテクツ)の即興的な作風もあって必要だったものをそのまま残しました。実際、材料的にもそれなりの大きさの鉄骨の材料を使っているので、捨てるのはもったいないということもありました。2階の部分を露わにして1階を作り変えているんですが、2階がバラバラになってしまうぐらいもろい状態だったので、ギブス的に残すということは、構造的にも意味がありました。

今はおばあさんが2階に住んでいて、1階は若い世代に変わったんですが、またその次の世代に変わっていった時に、今度は2階のこの梁を境に上の部分を改修して、下の部分は残して、という風に施工で生じた要素を使って住み継いでいくことができるきっかけになったんじゃないかと建築家の方と話をしていました。

最後なんですが、これは痕跡をあまり見せないタイプの建築です。美容室で、場所は三重県の伊賀になります。美容室でも敷地が広いところが田舎に行くと多いんですが、ここも結構広くて。美容室にプラスして、この廊下をギャラリーとして使うという、付加的な機能を持った美容室になります。

ハイサイドライトを光だけを取り込むような、抽象的なものにしたいということが条件だったのと、台形の平面をしてるので、普通に梁をかけていくとどうしても必要梁せいが変わっていくので、どういう風に対応するか、というところがテーマでした。

図版 Niimori Jamison

図版 Niimori Jamison

ハイサイドライトのところは高さが1.5mと低いということがありました。全体としては屋根の構成は長手方向に長さがあるので、背面側の壁と屋根面でハイサイドライトの部分は比較的水平方向に動きにくい状態になる。それで、この部分に最小限の材料を入れて、サッシに見えるぐらいのサイズのものを入れて鉛直荷重を支えるということを考えました。

長手方向のこの部分の長さは20mぐらいあるんですが、高さが低いので一体化して作れるということで柱と梁はあらかじめ溶接をしておいて、足元の方はプレートとボルトで繋ぐと。20mの梁は工場では作れないんですが、10mずつ運んできて現場で溶接をした後に軸組みしてから、クレーンでつり上げて一体搬入しました。それ以外は木造と同じように作ったので、ハイサイドのところだけ材料を使い分けて実現したという設計をしました。

台形のプランについて、ちょうどウッドショックの最中でした。最初は集成材を入れてたんですが、見積もりの途中で安いということで製材することになりました。規格品がウッドショックで品薄状態だったので、どの道作らなきゃいけないということで。一般的には30mm刻みで120、150、180という形で材せいが大きくなっていくんですが。その状況をうまく利用して、5mm刻みで材せいを変えるということをしています。この時は、差がかなり連続的で分かりにくい状態になり結果として、社会情勢を反映したことになるのかなと。作り方を最終的にどういう風に見せるか、という話になります。