素材と断面を配する – 後半

森田|

時間になりましたので、再開したいと思います。柳室さんには引き続きお話しいただいて、 最後にまとめて皆さんに質問の時間を作りたいと思います。では、どうぞよろしくお願いします。

柳室|

次のプロジェクトは〈しらさぎ子ども図書館〉と言って、クライアントが私費を投じて自分の家の隣に子どものための図書館を作るというプロジェクトです。建築家は湯川さん〈ユカワデザインラボ〉です。このスケッチにあるように、南側に公園があるんですがそこからのアプローチを考えています。橋からの動線を受け入れるような通路と、それを屋根の軒で受けてあげるということ、動線も左上の道路まで流すような、くの字形のプランになっている建物です。

図版 ユカワデザインラボ

この公園側に開けた妻面の開放性と、大屋根がふわっと軽く浮いてるような状態。2つの大きなテーマがあってそれを構造的にどう実現すべきかということを考えました。

まず、妻面の開口部に耐力壁を持ってくるべきではないと判断して、全体に壁が出てこないようなラーメン構造で検討しました。木造の場合だと300せい以上の柱が必要になるし、鉄骨の場合は150でいけます。これを提案した上で、本当に正しいのかってことを色々考えていました。木に包まれている感じを残したいということがあったので、木はやはり現しにすべきだということを思いました。

しかし、鉄骨で全部やりきると薄い屋根面は実現できるし、この垂れ壁の部分というのが木造だけだと実現するために少し工夫がいりました。鉄骨だと簡単に解けるんですが、それはちょっと違うんじゃないかという風に思っていて。

じゃあ、まず妻面にブレースを入れてみる綺麗な見せ方でブレースを入れることを1つ許容すると、それ以外のところでは梁も木造で行けるし、与えられている条件が満たせる状態になる。

平面的にも、くの字型に曲がっていることをうまく利用しました。、左側から短手方向に力がかかった時に、壁を中央部でも配置した方がいいという状態になります。その時、くの字のプランが活きて長手方向の背面の壁を効かせることができるので、中央の妻面以外の壁は設けなくてもいけると。そういう判断から外壁部には綺麗なブレースを入れることにして、あとは屋根の成立を考えたらいいと問題を絞りました。

屋根梁も全体としてはスパンが結構大きくて、全長で9m弱ぐらいの梁になるので、これを木造だけでやろうとするとどうしても継ぎ手が出てきてしまいます。木造だけで成立させようとすると、 梁せいが240や270が必要になるし、木質空間にはなるんですが、サイズ感が屋根をふわっと薄く作るっていうことから外れてしまう。

継手を作らなくてもいい状態にすることを考えると、鉄骨は直線の部材で10mぐらいまでは敷地によっては運べるので、木造の梁を両側から一本の鉄骨を挟む形で接合してあげると、在来木造の範疇で施工しながらも、鉄骨の剛性の高さを利用できるんじゃないか、ということでハイブリッドの梁を提案しました。

鉄骨を採用すると、その先端部の垂れ壁の部分も面外方向の力も負担できますし、150せいぐらいでいけると。鉄骨よりも少しだけサイズを大きくした木造を挟み込んであげると、接合部では木柱と木梁に対しては180の梁が取り合うことができる。なので、足りない剛性を負担して鉄骨を採用できるという、そういった工夫をしました。

梁のスパンの設定として、ちょうど1:2のスパン の設定にすると、外側にかかる力と内側にかかる曲げの力が つり合っていて効率がいいと。意匠的にも、持ち出しが2.73m中のスパンが2倍の5.46mでちょうどいいということになって採用しました。

これが作られてる時の様子です。木造の梁は6mが1つの規格の寸法で、それ以上いくと1.5倍ぐらい単価が上がってしまうので、木の部分は6m以下で済ませて、鉄骨で全体を繋いでいます。

元々意匠的に確保したかったこの公園側の面はガラス張りにして、この部分にブレースを設けています。この部分に梁を1つ流して、軒のところにちょうど水平に梁が流れるようにしています。そこから上は屋根自体が水平力を負担するブレースのような役割をするのでブレースが必要なく、最低限のものにしています。ブレースのサイズもφ16なんですが、すっきりとした納まりになるような接合部にしました。

ブレースが入ってきても透過性と視線の抜けが妨げられない状態とすることで、屋根の軽さだったり、全体の構成の整理を優先する判断をしたプロジェクトになります。くの字に曲がっているのですが全体として空間は繋がって遮るようなものがないというのが見て取れるかなと。

森田|

これはどこに建っているんですか。

柳室|

大阪の堺の方にある白鷺という駅の近くですね。一応、子供さんがいらっしゃったら入れるそうですが、大人だけでは入れないみたいです。

見えてくるところは木造の梁の底面なので、Cチャンの部分に直接下地・天井材を貼れるようなものとして考えていています。後、Cチャンだと軽いっていうのもあって、鉄骨を使ってもそれほどコストは上がらないっていうこともあります。こういう感じで軒下空間が通路にもなって居場所にもなる、ということが実現できているかなと。

最初に見た時に、この垂壁が構造的にはすごく違和感がある形だと思うんですね。それを木造で成立させようとすると、こういう薄さではなかなかできないなって直感的に思います。逆にこれが全部仕上げられてしまうと、鉄骨あるいはRCでやってるんだなっていうのがわかると思います。木質空間を維持しながらこの薄さを実現してちょっとした違和感を作っていることで、実際の薄さよりも軽快な印象を与えられると、このプロジェクトをやった後にも思いました。

自由のためのデザイン

柳室|

次の大事にしているポイントは、「自由のためのデザイン」です。複雑な形というのは設計上登場すると思うんですが、どういう風に扱うかという話になります。

これは住む方が女性限定にされているシェアハウスです。中にアトリウムみたいな半屋外空間が4つのボックスの間に用意されていて、その上に大屋根がかかっているというプロジェクトです。大屋根を実現するのに、建築家からは「ツリー上の柱と梁で屋根を支えたい」という要望がありました。

8m×10mぐらいのスパンなのでトラスを使ったり、横架材だけで屋根を飛ばすっとはできるんですが、少しスケールアウトしたような材料になってしまいます。樹で支えるっていうイメージは構造的にもうまく使えれば、小径の部材で成立させることができるんじゃないかという風に考えました。

時間がないプロジェクトだったということもあって、色々ルール付けをする必要があった。建築家の方が持ってるイメージをいかにランダムな状態を保ったまま、かつ、構造あるいは施工の面で実現可能なものにもっていくかをコントロールしたプロジェクトになりました。

この時はランダムなものがどれぐらい最終的にランダムに見えるかってことがわからない中でやっていました。一旦、動かない部分と動く部分っていうものを明確に決めました。柱が取りつく梁、最初に屋根を作るために、ここの母屋A・B・C・Dとあるんですが、そういう基本的な材料というのは決まっています。それを支える柱と枝状の梁っていうものがどこにどう取り付くか、接続関係を基本に決めました。

これがRCの屋根のような連続体であれば、もう少し自由度が高くできたんですが、木造なので基本的には梁が一定ピッチに並んでいる。その中で柱がランダムに支えていくとなると、どうしても支えていく場所を決めてあげないといけない。柱の本数を決め、梁の頬杖の本数を決め、その接続条件を設定してあげただけで、結構自由度が多くて、これを動かすだけでも意匠的にも自由度があると思えたので、その条件設定で意匠的にスタディをしてもらうことに決めました。

最終的に施工のために、出来上がった形を図面化をしないといけないんですが、この時はライノセラスとグラスホッパーを使ってスタディをしながら、同時に応力解析ができるようなプログラムを作って最終的に出来上がった形に対して図面を作成できたり施工のデータを作る全体のシステムを作りました。ここの右側に見えてるように、初期設定を対称の状態にして、意匠の方に渡しました。

設計事務所の方で断面検定の結果を確認しながら柱と梁の位置を描いて、最終の形状を決めてもらいました。なので、渡したものが帰ってくると既に成立しているという状態です。この時は、どれだけの自由度を設けると設計者としてもランダムな状態、自由度が高いと感じられるか、も確認したいということもあってトライしました。

実は、プレカットじゃなくて手加工というさらに厳しい条件があって、全ての柱と梁に関して、図面をライノセラスから取り出して描きそれを大工さんに渡して加工してもらった。この時は手加工でしたが、そのままデジタルデータとして扱ってプレカットしてくれる工場があるので、可能性があるやり方だなという風に思いました。

設計者の𩵋谷さんとしては「もう少し自由度が欲しかった」ということは言われていました。自由度を高めるとあるものに対しては成立するものはできると思うんです。そういうやり方もあると思う。今回は時間的な制約があってできなかったので、そこはこちらでジャッジしましたただ1つの作り方の新しい方法として生み出すことができたので、意味があったのかなと捉えてます。

垣内|

柱なしでやるとどうなりますか?

柳室|

柱を全部取る場合は梁せいを大きくするってことですね。あとは、今は横方向で壁の方につっかえている材料があると思うんですが、壁自体も面材方向の風圧力をかけていてその部分も7m×8mぐらいのスパンがあります。壁厚は120mm厚でやっているんですが、もしこのつっかえ棒的な頰杖がなければそちら方向の部材せいも上げないといけないです。

垣内|

壁の操作でやれないですか?

柳室|

そうですね。テーパーをつけ真ん中が厚くなるっていうイメージですか。壁厚はそうコントロールするっていうのもあると思います。ただ、ここは何もない空間というよりも、樹状の柱があっていい、むしろ欲しい状態だったので、それを生かして登場する材料を小さなもので済ませるっていうことは、ある種の合理性はあるかなと判断しています。


次のプロジェクトは、まず敷地平面をみるとボックス上の空間がランダムに並んでるプロジェクトで、 機能的にはベンチャー企業がスペースを借りて、ボックス以外のところが共有スペースになっていてオフィスが連なってる施設になります。


図版 木村慎也+安川雄基+神崎貴希+エーゼロ

すごく初歩的なことなんですが、木造で普通に作ろうと思うと右上にあるように、四角い平面に対してはX方向Y方向の2方向に対して壁を作ってあげなきゃいけない。かつ、その壁は基本的には偏りなく配置しないといけない、ということが定石としてはあります。 もし、壁を取るということであれば、ラーメン架構を作るという話になるんですが、基本的には最後の手段ということもあるし、今回は全体として壁が作れないわけではないので、耐力壁の配置の仕方をどういう風に扱うかということを考えました。

要望としては「各ボックスごとに1方向は壁を作らないトンネル状の空間が欲しい」ということがありました。あるボックスで考えると成立が難しいってことになるんですけども、全体で見て屋根を1つかけてあげるとバランスを保つことができる。この時も意匠の方から上がってくるものを結果として確認するのではなくて、意匠的なバランスを平面形状を変えながら同時に確認できるようなシステムを作ってそれをスタディしてもらいました。平面を回転したり移動したりすると、偏心率というバランスを表現する指標が変わっていくと。クライテリア(基準)を満たすような状態を保ちながらプランをいじってもらうと。

こうすると、自由度が高い場合にあと1m、このボックスを左に動かすとどうなるか、あんまり強い根拠がないケースもあって。あと、回転の話ですがどちら方向に向けると空間が良くなるか、ランダムであればあるほどなかなか難しくて。その時の根拠として、構造的な合理性を1つ条件に入れてあげると、その判断を手助けする形になる。設計行為として今は構造と意匠がバラバラに考えられることが多いので。それを同じ場所でやるようなこういうツールがあると、同時にできることがあるんじゃないかなと思って。


Photo by Yohei Sasakura