それのそれらしさ / mistletoe

ここからあと2作品ありまして、この2つは卒制の時に本当はやりたかったけど技術的にできなかったことを、ようやく実現できたという2つです。技術的にできなかったこと、というのは、接合部を検討するときに、当時の自分は木だけで行きたかったんですね。木だけが互いを支え合う構造を作りたかったけど、それができなかった。超えるべきハードルが多すぎて。

卒制の時はスチールのジョイントで、構造的には平面トラスで軸力でやっていたんですけど、卒制が終わった直後からもずっと個人的に研究を進めていました。今年10月と12月に新作を制作する機会があったので、そこに向けて終わらせにかかったっていう2作品です。

「mistletoe」

1つは、「mistletoe」という作品で、こういうものをつくりました。基本的な考え方は、卒制と一緒なんですけれども、構造の形式が違って、 レシプロカルストラクチャーという構造を使ってます。相持ち構造ですね。互いが互いを支え合う構造。互いにかかる荷重を支え合うことで成立するっていう構造形式で、一定の曲率とか、ある外形に対して適用するっていうのは既存研究で結構あるんですけど、自由曲面に対して、自由度が高い形で適用するっていうのがそう多くないので、そこをテーマにしてやってました。


これは樹種配置図なんですけど、これも同じように解析をかけて、それに対して、樹種を配置するっていうようなことをやりました。卒制の時はピンなので軸力なんですけど、この時は曲げでやってます。曲げ能力に対して適切な樹種を配置するというようなつくり方で。

思想的な話とかは割とさっきの卒制で終わってるので気軽に聞いてください。

形も任意の形状に対してなので、なんでもよかったんですけど、この時はひだの原理を用いて形をつくりました。つくった形に対してレシプロカルストラクチャーを適用させて、構造解析して、樹種を配置して制作するフローを設計する、ということをやりました。今、このひだが成長する部分をお見せしましたけど、このどこで止めても成立する状態をつくって、今回はそのうちの一つをつくるっていうフローです。

(動画を流しながら)

ひだの原理を用いた形

先ほどのところですね、全体形状を一枚のサーフェスでつくって、それを三角形のメッシュにします。その三角形の各辺を、辺の中点におけるサーフェスの法線ベクトルを中心軸にして回転させて、レシプロカル構造を適用するためのベースをつくります。この状態だと、線分と線分の距離がバラバラなんですね。近いところもあれば、遠いところもあれば、なんなら貫通しちゃってる部分とかもある。これらの線分を、正しい位置かつ任意の距離に収束させるっていうようなことをやってます。

最終的に欲しい長さと位置をプロットして、そこを結んでいくと、折れ線になります。この折れ線を、この線の長さを維持しながら、直線に戻すっていうようなシミュレーションをします。これで全体を収束させて、その形状に対して、曲げの構造解析をかけます。

いくつか気に入ってるポイントがあるんですけど、そのひとつがこの図です。 さっきのひだになってるやつを、無理やり平面に押し付けて平面化してるんですよね。そうすると、こういう図が得られるんですけど、これはだから、関係性を表すための図で、どの部材とどの部材が隣り合っているかっていうのだけを表しています。長さとかは全然バラバラなんですけど、このプロジェクトではこの図を平面図と呼んでいて、現場ではこの図面だけで組み立てていました。この角材一つ一つに番号が付いてるから、 33の隣には42が来て、ここには39が来て、みたいなのをこの図だけを見て、コンストラクションするっていうことをしていました。

ここに樹種を当てはめていくんですが、この時は25種類の木材を使いました。

ひだの平面図と応力分布・樹種の配置図

ここまでは線分でやってるんですが、これに対して、角材の断面を与えていきます。この辺りが、このプロジェクトを成立させるために必要な手続きですね。ここを解かないと、設計ができても制作ができない。例えば、この線分に対して角材の傾きをどう持ってくるかって任意なんですよね。この線分が中心線でさえあれば、角材の傾きはどの角度で止めてもいい。ここでは、この線分の元々のメッシュに対する法線ベクトルに対して直行するような角材の傾きで決めています。これはなんでかというと、この回転角が最小になるからなんですけど、相欠きの深さを最小にするために、そういう角材の向きの決定の仕方をしています。

その後、相欠きを定めるために、相欠きの底面の高さと傾きをどうするかという議論がありました。この角材と角材が重なってるところをどういう深さの分配にするか、というところです。 例えば極端な話、片方は欠き取らずに角材のままでも、もう片方が欠き取られていても成立するし、 互いに例えば半分ずつ欠き取っても成立しますよね。そしてもうひとつ、この相欠きの底面の傾きは任意なんですよね、ここが斜めだろうと成立する。それをどう決めるかっていうのが、これが作れるか作れないかっていうところに関わってきます。

3次元の相欠き部分の設計

3次元の相欠きになるので、普通に考えると、6軸のロボットアームみたいな切削機でないと切削ができない形状なんです。私は6軸を持っていないので、 このままだと制作ができない。ここをどう解いたかっていうのが個人的なお気に入りポイント2つめです。どのようにしたかというと、まず、この2本の軸線がなす平面っていうのが一意に定まりますよね。線分が空間中に2本あると、それがなす平面は一つしかない。この平面を二本の線分の最近接線の中点に置いて、相欠きの底面とするっていうようにすると、切削する時に1軸の回転で切削ができる。

三次元的な相欠きなので、本当は2軸で回転させないと加工できないんだけど、この底面設定にすると、1軸の回転で切削ができる。なぜなら、二本の角材のどちらの軸線も、この平面上にあるから。これが、この線とあの線が乗ってる平面じゃない平面があそこにあると、どちらの部材にとっても2軸遠いというか、 1軸も関係性のない平面になるので、2軸振らなきゃいけないんですけど、1軸乗ってると、 1軸振れば、その平面が得られるっていう状態になることに気付いたことで、これが作れるようになったんですね。

森田|

軸ってのはその材の軸ですかね?材の軸に対して振ればいいってことですか?

甲斐|

材の軸に対してです。材の軸に対して1軸回転する。これが切削のカット図なんですけど、トップビューで見た時に平面になるんですよね。これがもう1軸振られてると、欠き取るラインが平面にならない。

ここからが制作のフローです。材料を角材に製材して、長さをカットする。この角材を、回転角をコントロールするための治具に通します。さらに、この治具を受けるための治具にこれを固定します。こうすることで、平面上の指定した場所に指定した材が、指定した角度で傾いている状態をつくることができます。

1軸の回転で切削ができるための治具をすべてのジョイントに対して設計した

この状態で3軸のCNCに固定します。 3軸なので、刃物は平面上しか移動できないんですけど、角材が傾いているので、傾いた欠き取りができる。この時も角材の本数は合計270本ぐらいでした。卒制とはディテールと構造の考え方が違います。

これを東京で作って、大阪に持ってきて、現場で組み立てます。設営には、大学の教え子4人と行きました。

最終的には、人が3人ぐらい乗っても大丈夫な構造体になっています。部材を見るとすごい華奢で25mm角なんですけど、十分な対荷重が得られました。 人が乗れるのはわかってたんですけど、展示期間中に壊れるのが嫌だったので、展示の最終日に、この架構の上に乗って、私自身が展示物になっていました。

展示の最終日の強度の確認

それのそれらしさ / unclouded globes

最後ですね。これが一昨日(2022.12.15)竣工式を迎えたもので、なんとか今日に間に合ったらなと思って差し込んできました。芸大の音楽学部の一角に、隈さんが設計した5階建ての建物が新築で建ちまして、そのファサードのアートワークを担当しました。幅15メートル、高さ4メートルくらいのアートワークです。

「unclouded globes」

ドーム状のレシプロカルストラクチャーは、下向きの荷重に対して互いに支え合うことができるので、その重力方向の荷重を、壁面に対する引張力に置き換えれば、壁面に対しても同じことができるんじゃないかっていう仮説から始めたのがこのプロジェクトでした。

重力方向の荷重を壁面に対する引張力に置き換える

設計したのはこういうものです。1200mmぐらい壁面から張り出している構造体を作りました。立面としては基本的には矩形なんですけど、曲率を持っているので、下から見上げて見ると、常に外形が曲線になるような形を設計しました。与件としては、左右2ヶ所が非常用進入口となっているので開口とすること。

それからファサードの取り付け下地が100mm角のステンレスのスクリューメッシュなので、そのグリッドの交点でアンカーできるように、必ずアンカーがこのグリッドに乗ることを与件にしながら検討を進めていきました。固定方法としては、クロスクリップっていうワイヤーを止めるための既成金具があったので、これをスクリューメッシュの交点に入れて、 2方向への動きを止めて、そこに対して、ボルトでアンカーしてあげる。

アンカーポイントのディテール

アンカーポイントが31点あるんですけど、全部設計上のグリッドに載っています。それを構造解析にかけるんですが、今回はU35でやっていたような単純さではなくて、とても複雑でした。

構造的には、鉛直下方向の自重と、メッシュに対して引っ張る引っ張りと、面外の風っていうのを考慮して解析をしています。一昨日竣工式だったんですけど、実は5日前ぐらいまでは絶対にできないと思ってました。スケジュールがめちゃくちゃだったんですよ。完全に自分のせいなんですけど。これを設置するために地上で吊るんですが、心のなかでは絶対吊れないって思いながら吊ってました。これがつい10日前に、コンストラクションが始まりました。

クレーンで吊る時に、木架構を直接吊ると、木架構に吊りの自重がかかっちゃうので、吊元を別途単管で作って、その単管で作った吊元に木架構を固定していって、吊る時は単管を吊るようにしました。そして木架構をスクリューメッシュに固定してから、単管を5階の空中でばらすというやり方にしました。やり方にしたというか、そうしかできなかった。

地上で組み立てるときは、外周は仮でアンカーしてるんですけど、それ以外は全部支保工なしで、自立できていました。ただ、吊るす時には、この単管の平面が全てなので、単管の平面がちょっとでもねじれると破綻するんですよ。そこに、 応力が集中しちゃうので。

でも、実際に吊るときには、すごいねじれてしまいました。単管の長辺の一方を持ち上げて吊るんですけど、単菅の脚が単管クランプで止まっているので、片側を吊り上げると、反対側の脚が寝ちゃうんですよね。自分のイメージだと、クレーンで片側吊り上げたら平行移動してくれると思ってたんですけど、 平行移動じゃなくて、脚元を支点に回転しちゃったんですね。

バキバキみたいな音がする現場っていう。吊れないって思いながらやってたので、意外と精神的ストレスはなかったんですけど。

単管で作った吊元に木架構を固定
吊り下げ作業

垣内|

床おきじゃないと制作できなかったの?

甲斐|

壁面向きに作るってことはできるんですけど、5階だからできなかった。足場がないから。

垣内|

足元あればできる?

甲斐|

足場があればできなくはない。

クレーンで上空に

垣内|

こういう様子を写真で撮りたいっていう欲望があったから?

甲斐|

いやいやいや、ないです、ないです。こんなひやひやしたくないです(笑)

最初は、「足場がある状態の時につけます」って言っていたんですが、スケジュール的に足場は早々にばらされてしまうから、それをもう1回5階まで組むというのは、ましてやアートを入れ替えたりするたびに、それをやるのは難しいから、そうじゃない方法で検討する必要があって、最終的にはこうなったんですよね。

高所作業車とかも考えたんですけど、あそこに乗るのに資格が必要だから、 その場合は5階の高さで職人さんに組んでもらうしかないみたいなことにもなって、やむなしっていう。

高所作業

垣内|

でも壊れた時に、どこが壊れているかなんて絶対わかんないんじゃない?

甲斐|

曲げで壊れるんじゃなくて、接合部が壊れるので、そこをタッチアップすればオッケーな壊れ方でした。

垣内|

あ、材を変えず?

甲斐|

はい。幸い、良くも悪くもそのディテールが結構弱かったので、材の曲げでの破断ではなくて、接合部が先に破断しました。

垣内|

折れたらどうしようもなくなる?予備がないわけでしょ。

甲斐|

一本一本の予備は用意していないんですが、アトリエに戻ればすぐに新しいものを切削できる状態でした。結局このときは、接合部が破損した6本ぐらいを、吊った状態でタッチアップしました。そこから吊るのは早くて、そのあとは、木架構に自重をかけないようにしながら、単管をばらしていくっていう作業なんですよね。それがすごく難しくて、 本来は自分がその工程を全部設計しきってから吊らなきゃいけなかったんですけど、もう本当にドタバタだったので、その辺りが全然工程化されてない状態で吊ってしまっていて。

ただ、それに対しても、前田建設の担当の方が、「それは本来こちらで考えることなので、そういうところは、自分で全部背負わなくて大丈夫ですよ」みたいなことを言ってくださって、施工者という存在はすごい心強いなと思いました。構造もそうなんですよね、初めから相談してればよかったんですけど、全部自分でやることしか知らなかったので。

加工された部材のジョイント

森田|

確かに現場って、構造設計って組み上がった状態の解析はしますけれど、途中どう組んでくかっていうのは、工務店さんが組み立て方は考えますもんね。

そういう役割分担があることを学んだっていうことなんですね。

甲斐|

そうですね。まして自分は構造設計者でもないし、コンストラクターでもないっていう。

このような感じで吊って、 これを設計していた位置に、ワイヤーメッシュの位置をプロットして、そこに固定していく。

森田|

全然逃げがないっていうか、ドンピシャでいかないとはまらないですよね。

甲斐|

これ見ていただくとわかるんですが、U35の時は完全に遊び0なんですよ。というかマイナスなんですね、マイナス0.25なんです。だから木殺しして入れてる。これは間近で人が見るので。

こっちには遊びがあります。1.5ミリですかね。

森田|

それは、相欠きの部分ってこと?

甲斐|

そうです。ただ、その真ん中をピンで止めているので、位置ずれはしない。相欠きのところに遊びがあっても、センターが守られているので、位置ズレはしないっていうような状況。

これで安心して20代が終えられる、という怒涛の1年でした。

上空からの眺め