つくり方のつくり方 補足

甲斐|

それのそれらしさっていうテーマで3つ作品をお話しするんですけど、その前にひとつ、さっきのつくり方のつくり方で、 むしろこっち話した方がわかりやすかったかなっていうのがあったので。

Hackability of The Stoolというプロジェクトで、スツールをハックして、100パターンつくるというプロジェクトを元木大輔さんと取り組みました。もともとはDDAA(元木さんの事務所)内のリサーチプロジェクトだったのですが、中国の杭州や京都の京セラ美術館などでの展示に展開されています。

どのようにプロジェクトを進めていったかというと、自分が普段やっている協働のやり方としてこのパターンが1番多いんですが、まずスケッチをもらいます。スケッチをもらって、何か作りたいものや考えていることに対する概念を聞いて、そこから先はこちらで設計して制作します。このプロジェクトでも、シングルラインのスケッチから、マテリアルを与えて、寸法を与えて、ディティールを設計しています。

100脚を制作するための100枚のスケッチがあって、そこにはディティールもマテリアルも何もないんですけど、 元木さんがやろうとしていることとか、考えていることだけが描かれています。そしてそれはこういうことであろうっていうところを、自分も設計者なので、そこの解像度を落とさずに、コストとか、ものとしての良さとか、もちろん耐久性とかっていうところを抑えて解いていきました。

特に建築家と協働するときはこのパターンが1番多くて、中山さんであったり、 藤原徹平さんとか。

建築家ってサラサラってスケッチ書くじゃないですか。でも、割とそのスケッチが1番、思想の解像度が高いんですよね。だから、その人が本当に1番大事にしている思想、概念(=スケッチ)みたいなところからもらって、その思想に乗っかりながらそこから先をやるっていうのが1番、仕事のやり方としては、自分にとってはストレスがないし、1番いいものがつくれるような気がします。

独立当初はそれこそ生きるのに必死だったので、今も必死ですけど、 図面をもらって、図面のとおりに作って納めるっていう、工務店みたいな仕事も多かったし、それがほとんどだったんですかね。自分ができることも認知されていないし、自分でも理解できていなかったので、そういうことをやっていたんですけど、 最近は自分以外の人ができることは、自分以外の人にやってもらって、 自分じゃないとできないと信じられそうなところだけをやるようにしてます。

これはスツールのうちの1脚です。スケッチでは、脚にコンセントプラグが書いてありました。要は電源が取れるスツールっていうスケッチだったんですけど、脚につけるよりも天板にコンセントがついてて、それが巻き取り式のリールになってたらいいなと思い、逆提案して制作しました。ただ、このスツールの厚みに収まるようなサイズの巻き取り式のリールっていうのが意外と世の中にはないんですね。 身の回りのリールというリールを探った結果、自宅の炊飯器をひっくり返して、その裏に入っているリールを取り外し、 結線して、スツールにしました。なので、1週間ぐらいうちには炊飯器がなかったんですけど。

甲斐|

スツールのシリーズが本になっていて、400くらいのスケッチと、そこから選んで実際に制作した100脚が載ってるんですけど、1個1個に今みたいな話があって、永遠に喋れますね。

森田|

100脚全部作ったんですか?

甲斐|

全部作りました。もっと言うと、この本に出てくるこのスツールは、アアルトのものではなくて1脚2000円ぐらいのものなんです。このスツールで100脚作って、中国の広州で展示をするということになった時に、「やっぱりStool60でやりたいよね」ということで、Stool60で100脚作り直しました。なので200脚作っていて、そこからエディション販売のものをさらに制作しているので、250脚ぐらいは作ってるんですけど、楽しいんですよ。

1か所も作業的なところがなくて1個1個全部考えてやるので。1回目に100脚作った時と、2回目に100脚作った時は、ディティールが全然違うんですよ。ブラッシュアップしてるんです、勝手に。勝手にブラッシュアップして、ドライブしてやれるってのが、ライフワーク的に永遠にやれるような感じなんですよね。ずっとこんなことだけやっていたいです。

それのそれらしさ / as it is

それのそれらしさについてというところ、つくり方とかに比べるとちょっとわかりづらいかもしれないので、ツッコんでください。

1つ目がas it isというパヴィリオンの作品です。

形態を構造解析して得た応力の違いを樹種の違いで解決し、パヴィリオンを制作する。

構造を樹種の違いによって取ることで、形態が構造的な束縛から解放される。

「as it is」

形がただ形として存在すること。

素材が素材らしくあること。

それのそれらしさについて考える。

これが卒業制作の作品で、学生時代に抱えていた、いろんなモヤモヤを全部やってやろうって思ってやっていた作品です。概要としては、まさしく先ほど出た何かを設計する時に、全てを人のふるまい、例えば、人が座るからとか、人が登るからとか、人が通るからとか、あらかじめ人間のふるまいを考えて、その人間のふるまいを根拠に設計するのではなくて、そうではない根拠、人のふるまい以外を根拠として形をつくることはできないだろうか、というようなことを考えていました。

樹木に人が登ったりとか、木陰で人が休んだりとか、岩に人が腰かけるように、 その樹木そのものは人間がそうふるまうためにつくられた形ではないけれども、人が主体的にそのものにアプローチをすることで関係性が生まれる状態を建築と呼べないか、と思っていました。そういうつくり方をつくれないかと思ってるんですよね。建築をそういう論理でつくってしまえないだろうかという風に考えて制作した作品です。

もう1つがマテリアルについての軸で、ある形をつくった時に、それを構造解析をすると、どこにどういう力が働いていて、どこが破綻してるみたいのが出てくるんですけれども、 それを一般的なフローでは、設計でフィードバックするんですね。だから、スパンが飛びすぎてたらスパンを小さくするし、断面を大きくする。設計の部分でそういうフィードバックをするんですけれども、そうではなくて、あるパって描いた形が成立するフローをつくれないか。

形をつくる根拠に構造も入れたくないっていう風に思っていて。構造的にこうなってるからこうっていう、そういう論理ではなく、形を形としてつくれないかというようなことを考えていました。そこで、構造解析で得た応力の違いを、樹種の違いで解決しようと試みました。強い応力がかかってるところには、強い材料を使って、かかってないところには、弱い材料を使う、という形で構造を解決することで、設計した形がそのまま成り立つっていう状態をつくれないだろうかと考えていました。

形態を構造解析して得た応力の違いを、材の太さでなく樹種の違いで対応している

ざっとフローを説明しますと、敷地は大学のグラウンドで行ったんですけれども、外形を決めて、そこに点をバラバラとこう打つんですね。この打った点同士を結んで、メッシュにしていくんですけれど、 このメッシュに疎密をつくるということを平面設計では行いました。この状態では、高さはない状態ですね。なので、後で高さを設定した時にどこがどういう風になるかっていうのはわからない状態で、もう平面は決めてしまう。

次に立面設計プロセスでは、最初に疎密を作った平面に対して、大たわみ解析をかけることによって、最高高さだけを設定してあげて、1番高くなるところ、今回は3000mm、がその高さに達したら、 終わりっていう形で立面を決定しました。ここで決めた平面と立面には、もうこの後戻ってこないので、人のふるまいとは無関係に平面と立面を決定しました。このようにしてできた形に対して、構造解析をかけていきます。接合部は、角材にスリットを加工して、フラットバーを溶接したジョイントと固定するという方法を取りました。


接合部はピン固定とすることで、各線材にどれくらいの軸力(圧縮と引っ張り)がかかっているかのデータが得られます。この時は30種類ぐらいの樹種を使ったんですけど、使用するすべての材料に圧縮引っ張り試験をかけて、得られた数値をもとに樹種の配置を決めていきました。木材の軸力に関しての既存のデータもありますが、産地とかによっても数字が全然違うじゃないですか、同じ樹種でも。なのでこういう形を取りました。

全部で100個あって、全部角度が違うジョイント金物

形はそれでできるんですけど、もちろん設計しただけでは成り立たないので、それを成り立たせるためのディテールを設計していきます。最終的にはフラットバーを溶接するんですけど、全部で100個あって、全部角度が違うので、これも最初いろんな3Dプリントであったり、レーザーであったり、職人さんに溶接してもらうとか色々やってたんですけど、 職人さんに「3次元的な溶接はできない」と言われてしまいました。


当時、溶接がどのような原理なのかも知らず、どのような理由でできないと言われているのかが分からなかったので、溶接を勉強して、できないと言われている理由を理解して、それができるようになるための治具を設計することにしました。フラットバーを差し込むためのスリットも、角度がフラットバーに対して振れているので、そのスリットを角度切りするための治具も設計しています。そのカット図がこうパラパラと出てくるんですね。

なので、最初の設計の平面の点の母点を変えると、このカット図がパラパラと更新される、というような状態をつくりました。最後まで図面は1枚も書いていなくて、治具のカット図だけが出てくる状態をつくり、そのフローを設計図として提出しました。

溶接のための治具も全て設計した

木材は全部で270本ぐらいですかね。ジョイントの方は、フラットバーをシャーリングでカットして、後でピンで固定するための丸穴を開けます。そのフラットバーを治具に差し込んで、Tig溶接をする。それを100個、全部角度は違うんですけど、ナンバー通りに作業すれば良いだけですね。それをピンで固定していく。出来上がったものは、25m×15mぐらいだったと思います。

まとめると、最初に平面設計があって、立面設計があって、構造解析して樹種を決定する、という流れになります。それを全部ひと繋がりのフローにすることによって、最終的につくったものの、形の無意味さみたいなものを表現したかった。つくった形に意味があるんじゃなくて、そういうつくり方に意味がある、もしくはつくられた形に人がどうアプローチ、ふるまうかに意味があるっていう状態をつくるために、このようなことをしていました。

設計プロセスのフロー

ここで起きているこのメッシュの疎密というのは、構造的な根拠でできたものではないし、人が通り抜けできる、できないとか、人が乗れる、乗れないとかとも関係がなくできた形であるということが重要で、そこに対して、人が主体的にふるまうっていうところに興味がある。色は木材の色なんですけど、一般的に家具材とか建材とかって言われている材料を、そのレッテルじゃなくて、もっとフラットな視座で見れないかという風に思っていて、この時はフラットに見るための指標軸として、軸力っていうのを用いました。家具材もデッキ材も高級材もチープな材料も軸力がどうであるかっていうことだけで、等価に扱いました。

学生|

30種っていうのはどこから選んだんですか

甲斐|

特に理由はないんですけど、使用可能であった材料の数から出ているような感じです。この軸力に対しては、この樹種って明確に定めているわけではなくて、軸力のクラスターで分けてるんですね。ある程度の幅を持たせてて、そこに何種類か樹種がいて、そこから選ぶというように決めています。木があたたかいみたいな話もそうですし、ウォールナットがいい木であるとか、ラワンはチープであるっていう感じに違和感があって。わかんないじゃないですか。そんなのわかります?

プリント合板とか、メラミンとか、もう今ものすごいじゃないですか。無垢っていいよねっていう感じとか、もうわかんないと思うんですよ。無垢かどうか、つき板なのか、プリントなのかってもうわからない次元まで来ている中で、 プリント合板とかメラミンを見て「木っていいな」って思っちゃう感じに「うーん」っていうのがあるので、そうではない木らしさの1つとして、軸力っていうのを扱っていました。

最終的には人が乗れるくらいの構造体になるんですけど、乗るために設計しているわけじゃないから、本当に木登りするみたいに、 この先の枝行ったら折れるなみたいな感じで乗ってく感じですね。展示期間がそんなに長くなかったんですが、この時考えてたのは、その色とか、手触りとかっていう表層的なことではない部分で木材を扱いたいという風に思ってて、木材って雨に晒すと、どの樹種もシルバーグレーに褪色するんですけれども、全部がシルバーグレーになっても残る構造的な特性っていうのを扱った。実際には展示期間が短かったので、そうはならないんですが。

森田|

ちなみに断面というか、高さを決めるのは逆さ吊りで決められると思うんですけど、 平面を決める時の、人を考慮しないっていう目的がある中で、どういう手順で平面を作ったんですか?

甲斐|

いくつかあって、材料の長さの 限界っていうのが1つ、最大の長さが材料で取れる長さを超えないっていうところと、あと断面の大きさも歩留まりが良いかつ、卒制が終わった後にも材料で使える断面っていうので決定しました。だから、自分の卒制の後のプロジェクトに27ミリの角材が多いんですよね。あらゆることが何らかの理由があっていいんですけど、あくまでも人のふるまいとは無関係なロジックで決めたい、みたいな気持ちがありました。

森田|

平面の配置はマウスで1つ1つ決めたのではなくて、グラスホッパーで、関数の中で決めてるんですか。

甲斐|

そこの配置が1つ1つ、自分で決めていくようになると、そこにそういう感じがへばりついてしまうので、それを全部変数にしました。その観点からすると、自分はグラスホッパーの相性が良くて、「自分の設計において、重要な部分」っていうのは振幅が広がらないように全て関数で定義するんですよね。逆に「自分にとって重要じゃないこと、設計においてここは別になんでもいい、自分が決めなくていい、何らかの要件で決まればいい」っていうところは、変数にしてしまって、設計を続ける。

これ建築の決定の仕方でもすごいよくあると思うんですけど、いっぱいあるじゃないですか、「ここが外れても、自分の設計の概念からはずれない」っていう振幅のコントロールの仕方が。どこを定義して、どこを定義しないかっていう判断っていうのが、グラスホッパー(パラメトリックデザインのための3Dモデリングツール)は自分にとっては 相性が良いです。それを自分でも言語化しながら、理解しながら設計していくので、 やってることは普通に設計するのと全く一緒なんですけど、それをこうビジュアライズさせながらやってるような感じですね。

森田|

平面を決めるにあたって、かなりのことを数値化するとしても、どうしても自分で決めざるを得なかったことはどういうところですか。

甲斐|

どこをアンカーポイントにするかは完全に匙を投げてはないですよね。そこはもっとうまい方法なかったかなと思うんですけどね。完全決定はしてないんですけど、この辺とこの辺とこの辺みたいな点を打って、 そこの近くの点まとめて、5個とかをアンカーにするみたいな決め方をしました。

ギャラリー|

形の決まり方を無作為にするっていうのが目的だと思うんですが、その作為的なところをどう配慮してるのかなと思って。そのドットの打ち方と疎密の決め方を色々調整されてたんですが、関数化することが、無作為に繋がるっていうのをちょっと説明してもらえたらと思います

甲斐|

関数にすることが無作為にっていうわけではないですね。別にこの点を自分は1個1個打っていってもいいと思ってて、ただ、その1個1個打っていく論理に人のふるまいが無関係であれば良いと思ってて、だから、自分の美的感覚でこの配置にしたでいいと思うんですよね。というのが前提にあって、ばらまき方とかは完全に乱数にして決めているんですけど、そういう意味では、このアンカーする位置とかっていうのは、美的感覚みたいなやつで決めている。決め方にはいくつかありますね。

垣内|

美的感覚ってのはこの画面上において、この辺りとこの辺りっていうことで、例えばそこが人が通り抜ける云々関係なしにその図柄に対してのっていうこと?1分の1のスケール感は持ち込んでいない?

甲斐|

持ち込んでないですね。その配置が極端に2点が近くて、1点が離れるみたいなことにならないようにしてるぐらいな感じです。

ギャラリー|

構造を排除するとおっしゃってたんですけど、樹種を選ぶっていうのは、今、木構造の検討の時に、今でも普通にベイマツとか檜とかやってるんですが、それとはどう違うんでしょう?

甲斐|

違わないと思います。

ギャラリー|

樹種を選ぶっていう構造の技術を扱ったってことですね。

甲斐|

そうですね。それをリテラルにやってるぐらいなもんで、 それは普通に使っている。ベイマツは曲げに強いから使う、みたいなことではなく、っていうところはあるかもしれないです。一般論には結構嘘があると思っているので、そういうのはちゃんと考えたいっていうのはあります。