「現代建築家研究#1」として、ヴァレリオ・オルジアティをとりあげる。ヴァレリオ・オルジアティは「なにも参照しな い建築」など独特の言説で知られる、スイスの建築家である。建築を取り巻く諸分野やコンテクストなどから建築に対してアプローチする手法について否定し、それらから離れた参照元のない建物を設計することこそが、 建築の本質的な部分を考えることができる唯一の方法であると主張している。

 さらにオルジアティは、建築自体が人に思考させる ものでなければならないと主張しており、それを実践するために、独特な建築言語を用いて、特異でありながら普遍性を もった建築の生成を試みている。しかし、オルジアティの考え方や思想が様々な雑誌や著書などに明示されている一方で、実際の設計において彼がどのような操作や建築言語を使用しているのかについて触れ、その独特な手法を分析してい るものは少ない。

 コンテクストに頼らずに建物や空間について思考し、建築を 設計することが果たして可能であるのか。実際の作品やドローイングからオルジアティの作品に隠された建築的な操作や空間言語などを抽出し、 a+u や El croquis などに掲載された言説などを基に分析し考察を行うことで、オルジアティの思想についての解釈を深め、 彼独自の具体的な設計手法論・ルールを導き出すことを試みている。